よしもとばなな『イルカ』

よしもとばなな『イルカ』を読む。

イルカ (文春文庫)イルカ (文春文庫)
(2008/11/07)
よしもと ばなな

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まだ読んだことのない文庫だし、
冒頭を読んで、ちょっと興味惹かれて、手に取った。

主人公が33歳で、
インフルエンザの高熱を出すシーンから始まり、
符号をかんじたのかも。

ところどころ、はっとさせられる文章があり、あっという間に読んでしまう。

海辺のちょっとした田舎町、
どこかにゆがみを抱えつつ、しばし女性たちが休むために集う寺の様子や、
気味の悪い別荘の雰囲気とか、リアルにイメージできた。

わたしまで、小説を読むことで、小旅行・小さな冒険をした気分だった。

よしもとばななにしては、めずらしく、
「男の人は・・・」「女の人は・・・」ということを書いている箇所もあり、
その男性・女性の洞察が、
またよしもとばなならしく、
あたまでっかちではない、本能的な洞察で、いちいち感心した。


たとえば、こんな一節。




「(略)個人的には、
たいていの日本人の男性が向けてくる「母親扱い」の視線が耐えられなくて、
外国人、もしくは外国帰りのボーイフレンドが多かった。

だいたいどうしてまだ母親が生きてぴんぴんしているのに、
もうひとり母親を欲するのか、
わたしには日本人の男の人たちがさっぱりわからなかった。
歳をとるごとにさっぱりわからなくなっていった。

昔は多分、男が男である分、ぐっとこらえて信じられないようなことを
外で耐え抜いていたのだろうから、
家を守る女の人も包む理由があったのだろうし、
自分の男が死ぬのは死活問題だったわけだから、女を磨いてつくしていたのだろうけれど、
今それがそのままあるのはヤクザの世界くらいで、
みななにもこらえてないのに母親だけはしっかりと求めている。
それが不思議でならなかった。

ただいつも思うことはあった。
それは、人は人に優しくされたいのだな、ということだ。

誰もが人に話を聴いてもらいたいし、見てもらいたいし、優しくされたいのだ。
そうされないととても淋しいのだ。

私は自分のような中途半端な存在も
ちゃんと飲み込んでいさせてくれる都会が好きだった。
でも、都会にはそういう類の淋しさがいつでもまるで空気のように漂っている。
私はその匂いをよくかいだ。
夜のリムジンバスで、夜明けの駅で、だだっぴろいお店の中で。
淋しい、誰も自分を見てくれない、誰も優しく聞いてくれはしない、
自分は大勢の中の取るに足らないひとりに過ぎない、そういう匂いだった。

優しくしてもらいたいという気持ちのひずみが、
他人に母親を求める気持ちに通じていくのだな、
となんとなくそういうときいつでも思った。

そしてきっと女性は男に父親を求めていって、
お互い欲しがるばかりで与えることもないから、
すれ違う欲求不満のエネルギーだけが
あちこちに淋しく漂うことになるのだな、と思った。」


「女の人たちは、決して男との関係のことだけで悩んでいたり、疲れてしまったのではなかった。
ただ、男の人たちが持ってくる大きな疲れを一身に受けてしまった、
そういう感じだった」




正直、作品『イルカ』のメッセージやテーマが、
わたしには、一読しただけじゃ、わかりにくかった。

おそらく、よしもとばななが、
自分の妊娠・出産という経験をエッセンスに、作った、小説だとは思う。


五郎という恋人のキャラクターも、
どうも、わかるようで、わたしには人間的なリアリティがなくて。

『王国』の楓なんかも、ふわふわキャラだけど、
まだ描写によって、リアリティと説得力があった。


上に引用した文章を打っていて、あらためて思った感想は、
こんなことだった。

人は、誰しもが、
自分がかけがえのない存在になりたいし、
誰かとの、かけがえのない関係をもとめている。

他には、なににも変えられない、特別な存在として、特別な関係を。

でも、
それは、必死になって掴もう・握りしめようとしても、
得られないものであって、
かえって、追えば追うほど、かなしいものなのかもしれない。

「孤独」という言葉も、『イルカ』にはよく出てきたけど、
「人は、しょせん、ひとり」的な、
相手に求めすぎない、清潔な線引きみたいなものが、
この作品の登場人物には、共通している。

かといって、みなが、淋しさを感じないわけではないのだけど。

結果、
流れや、宇宙の出会いのダイナミズムのなかで、
人はすこしずつ、誰かとつながっていくことで、
だれしもが、同じではない、違う生命だし、
ひとりひとりが、かけがえのない存在なんだよなって、感じさせる作品・・・かな。

あと、
主人公がお料理を作って、色んな人に食べてもらう描写や、
食事を通して、わかりあうような描き方が、
とても愛情があって、好きだった。
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